京都市左京区一乗寺の静かな山間に佇む詩仙堂。江戸時代初期の文人・石川丈山が晩年を過ごした山荘跡として知られ、現在は曹洞宗大本山永平寺の末寺として多くの参拝者を迎えています。四季折々の美しい庭園風景と、静寂の中に響く「ししおどし」の音色が、訪れる人々を日本の風雅な世界へと誘います。
詩仙堂の歴史
石川丈山という人物
詩仙堂を創建した石川丈山(1583年~1672年)は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した武将・文人です。祖先は源義家の第六子義時と伝えられ、曾祖父以来、徳川家に仕える譜代の家柄でした。
徳川家康の近侍として仕え、大坂夏の陣では、家康が禁じていた先陣争いをして一番乗りの功を挙げました。しかし、軍令違反を咎められたことで徳川家を離れることになります。
その後、儒学者・藤原惺窩に師事し、儒学や詩文、書道、作庭など多方面にわたる教養を深め、文人としての道を歩み始めました。1641年(寛永18年)、59歳の時にこの一乗寺の地に山荘「凹凸窠(おうとつか)」を造営し、以後90歳で没するまでの31年間を詩歌三昧の生活の中で過ごしました。

「詩仙堂」の名の由来
詩仙堂は、正しくは「凹凸窠(おうとつか)」と呼びます。凹凸窠とは、でこぼこした土地に建てた住居という意味で、建物や庭園は山の斜面に沿って作られています。
凹凸窠の中心には、江戸時代を代表する絵師・狩野探幽(1602年~1674年)が描いた中国の漢・晋・唐・宋時代の詩人三十六人の肖像画が掲げられています。各肖像画の上部には、石川丈山自らが隷書体で詩を記しています。
この四方の壁に「詩仙の間」を中心としていることから「詩仙堂」という呼び名が定着しました。李白や杜甫をはじめとする中国歴代の名詩人たちの肖像は、日本の三十六歌仙になぞらえて丈山が林羅山と意見を交わしながら選定したもので、彼の深い漢詩への造詣を物語っています。
詩仙堂の見どころ
四季折々の唐様庭園

詩仙堂最大の魅力は、丈山自らが設計したと伝わる唐様庭園「百花塢(ひゃっかのう)」です。白砂が敷き詰められた庭園には、丸く刈り込まれたサツキと楓が織りなす独特の景観が広がります。
春(4月下旬~5月)
キリシマツツジが彩りを添え、5月下旬には白砂に映えるサツキが見頃を迎えます。初夏の青もみじとサツキの緑が織りなす清々しい風景は、詩仙堂を代表する景観の一つです。アヤメも美しく咲き誇ります。
夏(6月~8月)
ホタルブクロやキョウガノコが咲き誇り、青もみじの緑がより一層深まります。静寂の中で過ごす夏のひとときは格別です。

秋(11月中旬~下旬)
庭園全体を覆う紅葉は圧巻の美しさ。燃えるような赤と黄金色のグラデーションが、白砂と調和して幻想的な世界を創り出します。紅葉の名所として特に人気が高い時期です。シュウメイギクやススキも秋の風情を演出します。
冬(12月~2月)
静寂に包まれた雪景色は、まさに水墨画の世界。センリョウやマンリョウの赤い実が雪景色にアクセントを添えます。凛とした空気の中で眺める冬の庭園は、他の季節とは異なる趣を感じさせてくれます。

「ししおどし」発祥の地
庭園に響く独特の音―それが「ししおどし」(僧都・そうず、添水とも呼ばれる)です。実はこの装置、石川丈山自身が考案したと伝えられており、詩仙堂が発祥の地とされています。
もともとは猪や鹿などの動物を追い払うための実用的な装置でしたが、竹筒が石を叩く「カーン」という音は、静寂をより深く感じさせる風流な演出として、今では日本庭園の代名詞的存在となっています。丈山自身もこの音を好んだと伝えられています。
詩仙の間と三十六詩仙

詩仙堂の中心となる建物・凹凸窠。その中の「詩仙の間」には、四方の壁に狩野探幽が描いた三十六人の中国詩人の肖像画が掲げられています。この部屋から眺める庭園の景色は格別で、額縁のように切り取られた風景は、まるで一幅の絵画のようです。
李白、杜甫、白居易など、中国文学史に名を残す詩人たちの肖像を眺めながら、丈山が過ごした静謐な時間に思いを馳せることができます。
なお、凹凸窠は玄関上に3階建の「嘯月楼(しょうげつろう)」があり、詩仙の間や読書の間など多くの部屋で構成されています。丈山は建物や庭にある10個の要素を「凹凸窠十境」と見立てました。
散策できる庭園
詩仙堂の庭園は、室内から眺めるだけでなく、実際に歩いて散策することも可能です。山門「小有洞(しょうゆうどう)」をくぐり、木漏れ日の注ぐ石段を登り、中門「老梅関」を抜けると、情緒あふれる庭園が広がります。
庭の小径を歩きながら、様々な角度から季節の草花や木々を楽しむことができます。庭園には「洗蒙瀑(せんもうばく)」という滝や小川が流れ、「ししおどし」を間近で見ることもでき、竹筒に水が溜まり、石を叩いて水が流れる一連の動作を観察できるのも魅力の一つです。
国指定史跡として
詩仙堂は、江戸時代初期の文人山荘の姿を今に伝える貴重な文化財として、国の史跡に指定されています。380年以上の歴史を持つ建物と庭園は、当時の文人文化を知る上で極めて重要な遺産となっています。
英国王室も訪れた名所
詩仙堂は、日本の伝統美を体現する場所として国際的にも高く評価されています。1986年(昭和61年)5月9日には、英国王室のチャールズ皇太子(現国王チャールズ3世)と故ダイアナ妃が来日された際に訪問されました。「ダイアナフィーバー」が起こった中、数ヶ所見学された場所のうちの一つが詩仙堂でした。
現在も世界中から多くの観光客が訪れる京都を代表する文化財の一つとなっています。
曹洞宗の寺院として
現在、詩仙堂は「丈山寺」という寺名で、曹洞宗大本山永平寺の末寺として、信徒の皆様の教化を行っています。山号は六六山、本尊は馬郎婦観音(めろうふかんのん)です。
境内には永代供養塔があり、合祀による永代供養納骨も行っております。詳細はお問い合わせください。
施設情報
基本情報
寺院名
詩仙堂丈山寺
住所
〒606-8154 京都府京都市左京区一乗寺門口町27番地
電話番号
075-781-2954
拝観時間
9:00~17:00(受付終了16:45)
拝観休止日
5月23日(丈山忌)
拝観料
- 大人:700円
- 高校生:500円
- 小中学生:300円
御朱印
あり
公式ウェブサイト
https://kyoto-shisendo.net/
アクセス
公共交通機関でお越しの場合
◇ 市バス
「一乗寺下り松町」下車、徒歩約7分(東へ約300m)
- 京都駅・四条烏丸・河原町五条・四条河原町・三条駅より
5系統 銀閣寺・岩倉行 - 地下鉄烏丸線 北大路駅より
北8系統 修学院道・松ヶ崎行 - 地下鉄烏丸線 松ヶ崎駅より
北8系統 高野・北大路バスターミナル行
◇ 叡山電車
「一乗寺駅」下車、徒歩約15分(東へ約600m)
お車でお越しの場合
専用駐車場はございません。門前や途中にいくつかの民間有料駐車場・コインパーキングがございますので、そちらをご利用ください。
訪問のポイント
- ベストシーズン:サツキの5月下旬、紅葉の11月中旬~下旬が特におすすめです
- 所要時間:ゆっくり鑑賞して約45分~1時間
- 撮影:庭園・建物内部含め撮影は可能です
- 静寂を楽しむ:平日の早朝がより静かに鑑賞できます
まとめ
詩仙堂は、武士から文人へと転身した石川丈山の美意識が凝縮された、京都を代表する文化遺産です。380年以上の歴史を持つ庭園で、ししおどしの音色に耳を傾けながら四季の移ろいを感じる―そんな贅沢な時間を過ごすことができます。
京都市街からは少し離れた静かな山間にあるため、喧騒を離れてゆっくりと日本の伝統美に浸りたい方に特におすすめの場所です。詩仙の間から眺める庭園の風景は、何度訪れても心を癒してくれることでしょう。
自然に囲まれた静かな場所で、石川丈山が晩年を過ごした詩歌三昧の世界を体感してみてはいかがでしょうか。詩仙堂には、何度でも見たい景色が1年を通して常に広がっています。
住職からのメッセージ
「詩仙堂」を訪れる皆様は毎日の喧騒からのがれ、心のやすらぎを求めるため来られる方が多いと思います。山門をくぐった時と帰られる時の気持ちが、少しでも心静かになり「来てよかった」と思っていただくことが多くなるような環境作りに勤めております。どうぞゆっくりと縁側に腰をおろし、丈山が過ごした頃に思いを馳せ、ひとときを過ごしていただきたいと思います。
※最新の拝観情報や特別行事については、公式ウェブサイトをご確認ください。

