はじめに
京都市上京区、御所にほど近い閑静な地に佇む白峯神宮。「スポーツの守護神」「武道上達の神」「上昇氣運の神」として、全国のアスリートや学生から厚い信仰を集める神社です。特に球技の守護神として知られ、サッカー日本代表をはじめ、野球、バレーボール、バスケットボールなど、様々な競技の選手やチームが参拝に訪れます。
境内には樹齢数百年の霊木たる小賀玉の木がそびえ、飛鳥井からは清水が湧き出る、古都京都のオアシスのような神社です。
御祭神と由緒
主祭神
第75代 崇徳天皇(すとくてんのう)
保元の乱(1156年)で敗れ、讃岐国(現在の香川県)に配流された後、その地で崩御された悲運の天皇。和歌や文芸を深く愛された文化人でもあります。
第47代 淳仁天皇(じゅんにんてんのう)
奈良時代、藤原仲麻呂の乱に巻き込まれ、淡路島に配流されその地で崩御された天皇。
摂社
白峯神宮の境内には、主祭神とともに様々な神々を祀る摂社が点在しています。それぞれが独自の由緒と御神徳を持ち、参拝者の多様な願いに応えています。
精大明神(せいだいみょうじん)
蹴鞠の守護神として、公卿飛鳥井家が代々邸内に祀ってきた神。現在では「まりの神様」として、球技やスポーツ全般の守護神として広く信仰されています。
創建の歴史
画像提供:白峯神宮
幕末の動乱期、第121代孝明天皇は、保元の乱で悲運の運命を辿った崇徳天皇の御霊を慰め、国難に際してご加護を祈ろうと、四国・坂出の白峰山陵から京都へお迎えすることを望まれましたが、その願いは叶わぬまま崩御されました。
父帝の遺志を継いだ明治天皇は、慶応4年(明治元年)9月6日、和歌と蹴鞠の宗家として知られる公卿飛鳥井家の邸宅跡に社殿を造営し、崇徳天皇の御神霊を奉迎鎮座されました。続いて明治6年には淳仁天皇の御神霊も淡路島から遷座され、御併祀となりました。
当初は官幣中社でしたが、昭和15年には官幣大社に昇格し、「白峯神宮」となりました。
御社殿
流れ造(銅板葺)の御本殿は、賀茂御祖神社(下鴨神社)の「河合社」を模して建造されました。拝殿、神門、手水舎、瑞垣などは、檜皮葺きから銅板葺きに変更されましたが、築地塀とともに御創建時と同じ佇まいを保っています。
スポーツの守護神としての信仰
蹴鞠と精大明神
白峯神宮が「スポーツの守護神」として信仰される最大の理由は、精大明神の存在にあります。精大明神は、平安時代から続く蹴鞠の宗家・飛鳥井家が代々守護神として邸内に祀ってきた神で、白峯神宮の創建時にその祭祀を受け継ぎました。
蹴鞠は平安時代には宮中の雅な遊びとして、鎌倉時代には武士の嗜みとして興じられてきた伝統文化です。ボールを地面に落とさないという競技の特性から、「落ちない」「堕ちない」という縁起の良さも重なり、試験に落ちない、学力を落とさないという学業成就のご利益も信じられています。
全国のアスリートが訪れる聖地
現代では、日本サッカー協会をはじめとする各種競技団体や選手が、公式戦で使用したボールやユニフォームを奉納しています。サッカー、野球、バレーボール、バスケットボール、ラグビー、新体操など、球技を中心としたあらゆるスポーツの上達を願う参拝者が全国から訪れます。
春秋の修学旅行シーズンには、新人戦や大会を控えた学生たちの参拝で賑わい、全国唯一の**「闘魂守」**を授かって試合に臨む選手も少なくありません。
境内の見どころ
画像提供:白峯神宮
飛鳥井(あすかい)
画像提供:白峯神宮
境内の手水舎にある飛鳥井は、平安時代から名水として知られてきた由緒ある井戸です。
また、清少納言は『枕草子』第168段で、京の九つの名水の一つとして飛鳥井を挙げ、「みもひも寒し」と讃えています。明確に現存するのは本井戸だけであり、清少納言も楽しんだ名水が今も滾々と湧き出ています。
平安時代の歌謡曲である催馬楽「飛鳥井」には「飛鳥井に宿りはすべし、や、おけ、蔭もよし、御水(ミモヒ)も寒し、御秣(ミマクサ)もよし」と謡われ、オアシスのように人々が憩う場所であったことが想像されます。
三方を山に囲まれた平安京(京都市)は、その地形が伏流水を地中深く流し、豊かな水脈として大きな水瓶のように地中に蓄えられています。11月23日の献茶祭では、(公財)煎茶道方円流家元のご奉仕によりお茶が献じられ、庭上ではお茶席が設けられます。
潜龍井(せんりゅうい)
画像提供:白峯神宮
潜龍大明神の御神体とされる本井戸は、飛鳥井からほんの50mほど離れているだけですが、同じ地所でも深さが違うと、全く違った水脈源になり、水温も異なっています。
霊木と名木
小賀玉の木(おがたまのき)
画像提供:白峯神宮
京都市指定天然記念物
その名は招霊(おぎたま、霊を招くの意)が、なまったものとも言われるところから、神社の境内によく植えられています。
神宮に植栽されているオガタマノキは、樹高約13mで一説では樹齢800年と言われていますが、今も旺盛に春には白い芳香のある花を咲かせ、秋にはピンクの実を落として鳥たちや多くの生物を育んでいます。この木が京都では最大のもので、京都市指定天然記念物に指定されています。
- 巫女舞に使用される鈴は小賀玉の木の果実を模してつくられています
- 日本国通貨の1円硬貨に描かれている絵のモデルになっています
含笑花(がんしゅうげ)
画像提供:白峯神宮
本殿前の左右に植えられている中国原産の木で、中国名が「含笑花」。その名のとおり慎ましく微笑んでいるような花で、宋の李網の含笑花の賦に「南方花木の美なるもの含笑に若くはなし」とあります。
開花期間は4月中旬から5月下旬までと長いのですが、花は2・3日で落花します。一輪だけでもバナナのような甘い香気が強く、見えないところで咲いていても開花を知ることができます。
鬱金の桜(うこんのさくら)
画像提供:白峯神宮
春には珍しい淡黄色の花を咲かせる名木。春季例大祭の頃には満開となり、境内を彩ります。
三葉の松(さんようのまつ)
画像提供:白峯神宮
昔から日本では、豊饒と平安をもたらす神霊が、松を伝って地上に降臨すると信じられ、神聖な木として崇められてきました。
「三葉の松」は全国でも珍しく、その姿から「夫婦和楽・家内安全」を象徴して、その松葉は黄金色になって落葉します。松は普通二葉か五葉ですが、日本でもまれに三葉の松があり、おおむね神社か仏閣に植えられております。
その他の霊木
- 梶の木:古代から神に捧げる神木として尊ばれ、七夕祭に「歌」を葉に直接書いてお供えしました。七夕祭には梶鞠に使用します。
- ムクロジの木:無患子(子が患うことの無い樹)の意味。平安時代には石鹸として用いられました
- 右近の橘:宮中の伝統に倣い植えられています
境内社
地主社(じしゅしゃ)
画像提供:白峯神宮
飛鳥井家の旧鎮守社で、以下の神々が祀られています:
- 精大明神:球技・スポーツ芸能上達
- 柊大明神:厄除延命長寿(節分祭に『柊護符』特別授与)
- 今宮大神:無病息災
- 白峯天神:学業成就
- 糸元大明神:織物繁栄・和装
潜龍社(せんりゅうしゃ)
潜龍大神(龍神)を祀る社。昭和30年11月23日、境内にて御火焚祭斎行中、火炎の中に出現されたのをもって、水神(潜龍大神)として御宮を創建。翌年より今日に至るまで11月23日には毎年潜龍社祭が斎行されています。
ご利益は家系にまつわる諸々の悪縁を断ち、盗難災難除、病気平癒、事業隆昌に霊験あらたかな神として崇敬を集めています。
伴緒社(とものおしゃ)
崇徳天皇に仕えた武将、源為義公・鎮西八郎為朝公父子(共に弓の名手)を祀る武道の神。源義経の祖父と叔父にあたります。
- 武道繁栄奨励祭:5月5日
- 伴緒社祭(武道・弓道上達)小笠原教場による御弓神事:11月15日
年中行事
春季例大祭(4月14日)
淳仁天皇祭として斎行され、10時30分より祭典が執り行われます。蹴鞠保存会による蹴鞠奉納があり、蹴鞠体験も可能です。この頃、境内には遅咲きの黄色い鬱金桜が満開となります。
子供の日祭(5月5日)
- 武道繁栄奨励祭(8時30分):松濤館白峯塾、合気道無限塾の塾生による奉納があります
- 古武道奉納奉告祭(10時):日本古来の武道が全国より集い、様々な流派が御奉納されます
- 献茶式・野煎席:(公財)煎茶道方円流によるお献茶が執り行われます
夏越大祓(6月30日)
夏越大祓式(茅の輪くぐり神事)が17時より執り行われます。年始より半年の間に積もった身の罪穢れを祓い清めます。茅の輪を八の字に3回くぐり、その度に茅の葉に罪穢れが移り身が清らかになると言われています。
期間限定で『茅の輪護符』が特別授与されます。
精大明神例祭「七夕祭」(7月7日)
- 蹴鞠奉納(13時30分):蹴鞠保存会による梶鞠式(蹴鞠奉納)
- 小町をどり奉納奉告祭(16時):地元の少女たちによる『小町をどり』が奉納されます
小町をどりは、元来、奈良時代の宮中行事として始まった陰暦7月7日夜の乞功奠(芸能が巧みになることを乞祈る祭り)が起源とされています。元禄の頃には西陣界隈の乙女たちを熱狂させた伝統芸能です。
秋季例大祭(9月21日)
崇徳天皇祭(11時)として斎行されます。
上京薪能(秋季例大祭前後)
秋季例大祭に合わせて9月に開催される伝統芸能の祭典。観世・金剛流の能楽と大蔵流の狂言が、篝火に照らされた特設舞台で演じられ、幽玄な能の世界を堪能できます。
- 第一部:16時開演(15時30分開場)
- 第二部:18時開演(終演予定20時30分)
- 有料(前売券あり)
- 雨天時は金剛能楽堂にて
※開催日は年によって異なるため、事前にご確認ください。2025年は9月19日開催。
観月祭(10月望月の日)
古来の習わしどおり、陰暦9月15日(中秋名月)前後の日、夕刻より行われます。崇敬者から献納された「みあかし」が社頭に掲げられ大神様の御心をお慰めします。
崇徳天皇は宮中きっての管絃と和歌の名手でしたので、月のもっとも美しい望月の旧の中秋に観月の催しが行われます。祭典後、各種団体・グループ等により、各種芸能・舞楽等が奉奏・奉納されます。
その他の主な行事
- 節分祭(2月節分):鬼遣い豆まき神事、柊大明神例祭(16時)
- 伴緒社祭(11月15日):御弓神事
- 七五三詣(11月15日前後)
- 献茶祭・潜龍社祭(11月23日):新酒の白酒(しろき)がいただけます
- 年越大祓式(12月31日)
御朱印・お守り
御朱印
通常の御朱印のほか、季節限定の特別御朱印も授与されています(9月1日より秋の限定御朱印など)。
お守り・授与品
- 闘魂守:全国唯一の「闘魂守」。スポーツの試合や武道の大会に挑む人々に人気
- 闘魂叶う輪:サッカー、野球、バレーボールなど、各種競技の練習の成果を発揮するための縁起物
- 足腰守護:スポーツ選手に重要な足腰の健康を守るお守り
- 学業守:「落ちない」蹴鞠の御利益にあやかり、試験合格を願うお守り
- 柊護符:節分の時季限定で授与される魔除・厄除のお守り
- 茅の輪護符:夏越大祓の時季限定で授与されるお守り
施設情報
基本情報
住所
〒602-0054 京都府京都市上京区今出川通堀川東入飛鳥井町261
電話番号
075-441-3810
公式ホームページ
https://shiraminejingu.or.jp/
参拝時間
境内
自由参拝(参拝時間:8:00~17:00)
授与所
8:00~16:30
アクセス
市バス
「堀川今出川」バス停下車、徒歩約2分
地下鉄
烏丸線「今出川駅」から徒歩約10分
駐車場
あり(少数)
※台数に限りがあるため、公共交通機関の利用をおすすめします。
御朱印の有無
あり
重要文化財・天然記念物
国指定重要文化財
- 崇徳上皇像(絹本著色)付随身像
京都市指定天然記念物
- 小賀玉の木
まとめ
白峯神宮は、悲運の天皇を祀る御霊社としての歴史的側面と、スポーツの守護神としての現代的な信仰が融合した、京都でも珍しい神社です。蹴鞠という伝統文化を守り継ぎながら、現代のスポーツ振興にも貢献する姿は、古都京都における伝統と革新の調和を象徴しています。
御所にほど近い静謐な環境、清少納言も讃えた名水「飛鳥井」、樹齢数百年の霊木たち。これらが織りなす空間は、まさに古都京都のオアシスといえるでしょう。
スポーツの上達を願う方、学業成就を祈願する学生、武道を志す方、そして京都の歴史と文化に触れたい方まで、幅広い参拝者を温かく迎え入れる白峯神宮。京都観光の際には、ぜひ足を運んでいただきたい名社です。
参拝時の注意事項
- 境内での写真撮影は可能ですが、祭事時の写真・映像の使用には事前に社務所への連絡が必要です
- 境内は神聖な場所です。静かに参拝しましょう
- お守りや御朱印の授与時間にご注意ください(8:00~16:30)
お問い合わせ
白峯神宮 社務所
電話:075-441-3810
※本記事で使用している画像は白峯神宮公式サイトより引用しています。使用にあたっては事前に白峯神宮社務所に許可を得ることをお勧めします。

